「傷」
1P

 

 「リナ、リナ、しっかりしろ!」

 ぱしっと強く頬を叩かれ、痛みというよりはその衝撃で、あたしは目を覚ました。目を開くと、そこには見なれたはずのガウリイの顔。でも何だか、全然知らない人間にも見える。
 「気がついたか。」
 ほっとした声。やっぱりガウリイだ。
 あたしは何故だか安心して、そのまま目を閉じようとした。するとまた、頬を軽く叩かれる。
 「おい、寝るな。目を覚ませ!」
 なあによ。あたしは眠いんだから。放っといて。
 そう言おうと、目を開けようとしたが、開かない。ふわふわと、ほかほかと、眠りの海に落込もうとする。
 「・・・?」
 唇に、暖かい感触。
 あり。これって・・・・・・

 次の瞬間、あたしはぱかっと目を覚ます。にやりと笑ってこちらを見ている、ガウリイの顔。
 「やっと起きたか。」
 「!」
 あたしは唇に手を当てる。
 「ガガガガガウリイ!?いいいいいま、あたしに、ななななにを!?」
 「効果覿面だったろ。」
 「・・・!」
 盛大に呪文の一つでもぶちかましてやろうとして、ふと、あたしはガウリイの顔についた、幾筋かの赤い傷跡に気がついた。
 まるで、ひっかかれたみたいな・・・・。
 唇に当てた手をどかそうとして、その指先がわずかに赤く染まっているのに、はっとする。これって、ひょっとして・・・・?

 「ガウリイ・・・・その傷。もしかして、あたし?」
 言われたガウリイは、今、気がついたかのように自分の頬に触り、ちょっと困った顔をした。
 「オレのことより。ほら。」
 そう言うと、あたしの左手を掴んでひっくり返して見せた。甲の皮が剥け、血が滲んでいる。
 「やだ。何これ。何で・・・・」
 「ったく、こっちが聞きたいぜ。うなされてるみたいな声がしたから、部屋に入ってみればお前さん、うーうー言いながら、自分の手かきむしってて。」
 「・・・。」
 全く覚えがない。
 え〜〜〜〜と・・・・?頭を捻るあたし。


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