「はじめの一歩。」
by そーら

 つい甘えたくなる時がある。
 たとえば、疲れた時。くたくたになって、眠いけどなんとなく眠ってしまうのが惜しい時。自分がいつもと違うなとは思っても、それ以上理性が働かない時。
 それから機嫌のいい時。朝からお天気もよくって、朝ご飯も美味しくって、なんだかすべてがうまく行きそうに思える時。こんな時は照れも忘れて、構っても構われても大丈夫なんじゃないかと思ってしまう。
 
 甘えたくない時もある。
 自分が何かに負けた時。誰にも優しくしてほしくない。自分が負けたという事実から目を逸らしてほしくない。ただ膝を抱えて、一人で考える時間がほしいだけ。
 弱くなりたくないから。強くありたいから。
 
 でも甘えたくなるのは、気持ちの上だけ。上手に甘えられる自信なんかない。自然にできたら。ほんの一歩、勇気を持って踏み出すだけなのだろうが。


 「なあリナ。」
 「ん?」
 「言ってもいいか?」
 「・・・・何を?」
 「肩にケムシが・・・」
 「どひぃいいいっ!?
 「だから、言ってもいいかって。」
 「な、な、なんでもいいから取って取って!」
 「ほい。」
 「もういない?」
 「うん、肩にはいない。」
 「ちょおっと待って。肩には・・ってえことは・・?」
 「だってお前、ケムシん中歩いてるから。」

 うゃっっ!!

 「な、な、なんでケムシが列作って歩いてんのよおおお!!」
 「さあ。オレは知らんぞ。」
 「なんでもっと早く言ってくんなかったのよ!?」
 「言ったぞ。でも聞いてなかったみたいだな。」
 「確認せえ、確認!!!!」
 「あ、そこ。」
 「え。」
 「・・・言ってもいいか?」
 「だから早く言いなさいってば!!」
 「ナメクジ。」
 
 ひぎぎぎぎいぎぎぎ!!!!
 
 「天気がいいから皆でピクニックでも行くのかなあ♪」
 「のんきなこと言ってないで・・・」
 「ん?」
 「助けなさいよっ!!!!」
 「何で。そこから一歩こっちに踏み出せば済むことだろ?」
 「い、一歩が出ないのよ・・・・」
 「簡単じゃないか。ほら、こうしてだな、片足を挙げて、それからそれをちょっと遠くに伸ばして・・・・・」
 「一歩の出し方を聞いてるんじゃなああ〜〜〜〜〜〜い!!」
 「なんだ。そっか。なら、何で一歩が出せないんだ?」
 「あ、足が」
 「折ったか挫いたか捻ったか?」
 「動かない。」
 
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