「だからあたしは。」
1P

   

 
 
 ぴちぴちちゅくちゅく。
 小鳥さんも上空で歌う、穏やかな春の風が吹く街角。なんともこう、すがすがしい朝である。やっぱり一日の始まりは、こうでなくっちゃね(はぁと)
 
 気持ちよく目覚めたあたしは、洗面所で顔を洗う。後からアメリアが追い付いてきた。
 「あ、リナさん。昨日、上着のほつれてるって言ってたとこ。直しておきましたよ?」
 「えっ、ホント?アメリア、さんきゅ〜っ♪」
 「いえ、自分のついでですから。それと、ちょうど留め金が取れかけてるのがありました。」
 「あちゃ〜。どの辺?」
 「いえ、それもついでで直しておきました。」
 「アメリア〜♪だから好きよ〜っ♪」
 おかっぱ頭をかいぐりかいぐりするあたし。
 素直に親愛の情を示しただけなのだが、アメリアは露骨に嫌そうな顔をする。
 「おだててもダメですよ。次は自分でやって下さいねっ。」
 「ぶう。わかってるわよ〜〜〜。」
 ちっ。この手には乗ってくんないか。
  
 「何だお前達、まだこんなところにいたのか。ガウリイのダンナは、もう食堂で待ってるぜ。」
 「あらゼル、早いわねあんた。」
 次にやってきたのは、マントはつけていないものの、すっかり着替えているゼルガディスだった。まだパジャマだったアメリアが、何故かこそこそとあたしの後に隠れようとする。
 「まあな。今朝は暗いうちから目が覚めちまって。しょうがないから、剣の研ぎ直しなんぞやってきた。」
 そう言って、ゼルは腰のブロードソードを示した。
 「ああ、あんたの剣、少し刃毀れしてるって言ってたわよね。・・・・しっかし、あんたもマメよね〜〜〜っ。」
 「いざという時に役に立たんと困るからな。」
 
 ぴきん♪
 あたしの鼻に何かが匂う。何かお得な気配がすりゅ。
 
 「ものは相談なんだけど、ゼル。あたしの細剣もちこっと研いでくんないっかな〜〜〜〜。そんかわし、こないだ手に入れた希少薬草、安く分けてアゲルから♪」
 おまけにウィンクもつけちゃう。ゼルは大仰にため息をついてみせる。
 「お礼にタダにする気はないんだな・・・・。まあ、リナらしいと言うか。いいさ、どうせ今日は他にすることもないしな。」
 「ホントっ!やたっ!!らあっきい♪ゼルちゃんアイシテル〜〜〜〜♪♪♪」
 「ぶっ、ごほっ、ごほっ」
 アメリアと同じくちょっと親愛の情を込めただけなのだが、何故かこの岩男は激しく咳きこむ。あたしの後では、アメリアが思いっきりたじろいでいた。
 「リ・リナさん・・本当はゼルガディスさんが好きだったんですか?」
 ・・・は???
 「な、何言ってんのよ、アメリア?さっきあんたにも言ったでしょっ?あたし、嬉しいとつい出ちゃうのよね。好きとかアイシテルとか。」
 あたしが手をぱたぱたと振ると、アメリアの顔がぱっと明るくなった。
 「なあんだ、そうだったんですか。じゃあはりきって、朝ご飯を食べに行きましょ〜〜〜〜っ♪」
 何をほっとしてんだろ〜か。このムスメは。

 
<次のページへ>